2025年4月 病院薬剤師21年目になって考えたこと

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病院薬剤師 21年目になりました。
病棟活動をしているとき、考えることが多くなってきたことを言語化してみます。

ぼくが本格的に薬物療法の提案に関わるようになった時期から今まで、そしてこれからどのような考えで活動するか書きます。
アイキャッチ画像にあるようなAIの具体的な活用方法について今回ふれているわけではないので、そちらを期待している方は内容がマッチしていないのでご了承ください。

このブログを書いている人は
病院薬剤師歴20年以上!プロフィール
抗菌化学療法認定薬剤師、元NST専門療法士某学会認定薬剤師医療専門書の購入歴300冊以上です。

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わかりやすい、コスパが高い本を選ぶようにしています!

目次

臨床推論と薬物療法の相乗効果

13年前、2012年にある薬剤師がやっている病棟業務の内容に衝撃をおぼえました。
その薬剤師は、バイタルサイン、検査値、画像検査、病態生理を勉強し高いレベルで薬物療法の提案を行っていました。
その当時はそのような薬剤師は少なかったです。
ぼくは、どうやったらそのような知識を身につけることができるのか?おすすめの本を教えてもらいました。
今思えば、それが医師向けの医学書を購入し始めるきっかけでした。

そして2013年秋にじほうが出版する「薬剤師のための臨床推論」を読んで、さらに衝撃をおぼえました。
薬剤師がここまで医学を理解して病棟活動しているのか!?大きな転機でした。それまでは薬の知識中心の勉強していましたが、患者さんの症状や検査データから病態を推測し、薬物療法、副作用評価につなげる思考プロセスに強く心を動かされました。

「患者さんの病態を理解して、より良い薬物療法を提供したい」

この思いから、医学知識の勉強に夢中になりました。
目標は「研修医レベルの医学知識を身につけること」。診断学、解剖生理、病態生理、検査値の見方、画像の見方といった分野の研修医向けの本を買いました。

さらに、この症状は本当に副作用だろうか?と常に疑問をもつようにしました、

  • 「この症状の原因は何だろう?」
  • 「薬の副作用だけでなく、背景にある病気は何だろう?」

こんな問いを常に自分に投げかけながら、医学書を次々と購入し、気づけば300冊以上になりました。
もちろん、薬剤師としての専門性を高める薬学書も含まれています。
新しい知識を吸収する喜びはとても大きく、朝、仕事終わり、休日と時間を惜しまず勉強に費やしました。

医学知識が広げた薬剤師としての可能性

貪欲に吸収した医学知識は、日々の薬剤師業務の質を格段に高めてくれました。
患者さんの病態を深く理解した上で薬の説明をしたり、医師、看護師と話したりすること可能になったんです。

具体的には、こんな場面で成果を実感しました。

感染症治療

原因菌を予測し、感受性や臓器への移行性を考えた抗菌薬の選択、投与設計、効果判定、抗菌薬の止め時まで積極的に関わるようになりました。

電解質異常の管理

脱水や心不全、腎不全、肝硬変、内分泌疾患など、電解質異常の原因となる病気を推測し、根本治療と対症療法(輸液や薬)の両面から医師と一緒に治療計画を考えられるようになりました。
特にナトリウム値が低い場合は、SIADHなどの鑑別診断にも関わり、適切な治療提案につなげることができました。

血糖コントロール

高血糖の是正に関わり、インスリンの種類選択や単位設定、経口血糖降下薬の選択・調整について具体的な提案ができるようになりました。
体調不良時の対応や手術前後の血糖管理計画にも深く関わりました。

栄養管理

患者さんの状態や消化管機能、栄養状態を評価し、高カロリー輸液から末梢からの点滴、経腸栄養への移行計画を考え・提案し、実施までをサポートしました。

がん薬物療法

主に消化器系のがん薬物療法でレジメンの選択、副作用対策、支持療法の提案などを積極的に行いました。

緩和ケア

がん患者さんの痛みのコントロール、副作用対策、精神症状、消化器症状などの薬物療法を、医師、看護師とディスカッションして提案しました。

医師、看護師の見る目の変化

これらの実践を通じて、医師、看護師からの薬に関する相談は明らかに増え、

「抗菌薬と輸液を考えてくれる?」

「検査値が悪くなっていて主治医がまだ確認できていないみたいだけど緊急性はないかな?」

「こんな症状があるのだけど、薬物療法はひつようだろうか?副作用かな?」

と言われることも多くなりました。
チームメイトとしてともに治療にあたっている実感をより感じるようになりました。
とても嬉しく、やる気の源になりました。

ミニドクター化への不安と専門性

充実した日々を送る一方で、4年ほど前、2021年から自分の立ち位置について、いくつかの疑問と不安が頭をもたげるようになりました。

医学知識を深め、臨床現場で貢献できている実感が増すほど、
「薬剤師が症状から病気を想像し、診断のような考察をすることは、本当に適切なのだろうか?」という問いが浮かんできたのです。

知識の限界とリスク

診断のプロセスでは、考えられる病気のリストを挙げ、可能性の高いものから順に調べ、見逃してはいけない病気を除外することが大切です。
でも、ぼくが思いつく病気のリストや検査の知識は、毎日診断トレーニングを積んでいる医師、特に専門医と比べると、どうしても不十分ではない?
中途半端な知識で診断的な思考を深めることで、かえって患者さんを危険にさらすことにならないか、と不安を感じ始めました。

薬剤師の専門性の薄れ

医学知識の習得に時間を使いすぎて、薬剤師本来の専門分野である薬物動態学、製剤学、相互作用、医薬品情報といった分野の知識更新やスキル向上がおろそかになっているのでは?という心配も出てきました。
薬の深い知識こそが、薬剤師がチーム医療で貢献できる独自の価値ではないかと。

「ミニドクター」と呼ばれる違和感

医学知識を積極的に活用する薬剤師に対して、「ミニドクター」とからかうような風潮があることもあるかと思います。
これは、臨床推論の考えが広まって数年で耳にしたと記憶しています。

医師の領域に踏み込みすぎている、中途半端な知識で医師のようにふるまっている、と見られることへの抵抗感も感じました。
薬剤師であることを見失い、中途半端な存在になってしまうのでは?という不安です。
もちろん、これは副作用だろうか?と評価するときに一定の医学知識、診断学は必要な事だと考えています。
3ステップで推論する副作用のみかた・考えかた」という本が出版されたときも薬剤師に必要な本だとぼくも考えています。

誤解がないようにお伝えすると、医学知識を勉強することに反対しているわけではありません。
それぞれの環境、ステージで時間配分を変えていく必要があると考えています。

学習効率の壁

40代を迎え、若い頃と同じようには知識を吸収・記憶できなくなってきていることも、正直な実感としてありました。
日々膨大な情報が更新される医療で、広い医学知識と薬剤師としての専門知識の両方を高いレベルで維持し続けることに、時間的・能力的な限界を感じ始めていたのです。

これらの疑問や不安は、日々の仕事の中で少しずつ大きくなっていきました。医師からの信頼は嬉しい反面、その期待に応えようと医学知識を深めるほど、薬剤師としての自分の立ち位置があいまいになっていくような感覚でした。
薬剤師ど真ん中の質問にスムーズに答えられないとき、さらにそれを実感しました。

専門分野の集中とチームでの役割

さまざまな葛藤を経て、薬剤師としての知識・スキルの方向性を見直すことにしました。
広い医学知識を追い求めるのではなく、薬剤師としての専門性を基盤に、より深く、そして効果的にチーム医療に貢献できる道を探ることにしたのです。

今の私が考える「ちょうどいいバランス」は、こんな感じです:

医学知識

電子カルテに書かれている情報(診断名、検査値、画像所見、治療計画など)を正確に理解し、医師、看護師、他のスタッフとスムーズにコミュニケーションを取るために必要最低限のレベルを維持する。
症状や所見から診断を試みるのではなく、薬学的な関わりに必要な範囲での病態理解にあえてとどめ、医師とディスカッションする。

専門性を深める

薬剤師としての核となる能力(薬物動態、薬力学、製剤学、相互作用、副作用評価、医薬品情報評価など)を常に更新し、高いレベルを維持する。

得意分野への集中

自分の興味と病院でのニーズが高く、これまでの経験で強みを発揮してきた「感染症」「電解質異常」「がん」の3つの分野に絞り込み、これらの分野では主治医とディスカッションし、質の高い薬物療法が支援できるレベルの知識・スキルを目指す。

なぜ方針を変えるのか

方針を変える理由は、限られた時間と脳のリソースを最も効果的に使うためでもあります。
すべての分野をカバーしようとするのではなく、自分の強みを活かせる分野で圧倒的な専門性を発揮することが、結果的にチーム医療への最大の貢献につながると考えました。

また、医師との役割分担を明確にしつつ、薬剤師ならではの視点から意見を言うことで、薬のスペシャリストとしてのアイデンティティを再確立できると考えました。

さらに、チーム医療では、医師だけでなく、看護師や他のスタッフとの連携もとても大切です。
それぞれの専門性を尊重し、情報を共有し、共通の目標に向かって協力する中で、薬剤師としてどんな貢献ができるかを常に意識するようにしています。

生成AIの衝撃と活用

自分の学習方針を見直していた時期とちょうど重なるように、2021年くらいChatGPTなどの生成AIが話題になりました。
2024年から急速に活用レベルが上がっていると感じています。
医療情報の収集や知識確認の方法に大きな変革が起きました。
この技術の進化も、ぼくの考え方に大きな影響を与えています。

ぼくはAIを十分に活用できていませんが、これは日々の疑問解決や知識の確認に、とても強力な道具になると感じています。

でも同時に、生成AIの限界とリスクも認識しています。
最も注意すべきは「ハルシネーション(もっともらしいウソをつくこと)」です。
特に医療のような正確さが絶対に求められる分野では、AIが生成した情報を鵜呑みにすることはとても危険です。だから、AIの回答はあくまで「仮説」や「たたき台」として考え、必ず複数の信頼できる情報源(論文、ガイドライン、専門書など)で事実確認をすることを徹底しましょう。

生成AIを上手に活用するには、ただ質問を投げかけるだけでなく、次のような能力が必要です:

  • 適切な指示(プロンプト)を与える能力
  • 生成された情報の真偽や妥当性を批判的に評価する能力
  • 情報の出典を確認し、証拠の強さを判断する能力
  • AIの限界を理解し、依存しすぎない姿勢
  • 個人情報の取り扱い

AIはあくまでツールであり、最終的な判断と責任は人間にあることを常に心に留めておきましょう。

Google AI Essentialsというwebで受講できるコースを受講すると最低限必要な事を勉強できるのでおすすめです。

薬剤師としての挑戦とAIとの協働

こうした経験と考え方の変化の中で、最近は「医療情報」そのものへの関心が深まってきました。
膨大な情報の中から、どうやって正確で質の高い、証拠に基づいた情報を見分け、評価し、そして臨床現場に活かすか。
この能力はこれからの薬剤師にとっても重要になると考えたのです。

AIは膨大な情報をすぐに集め、ある程度の評価をすることができます。
しかし、その情報の質を評価し、状況に合わせて解釈し、個々の患者さんに最適化して応用することは、やはり人間の専門家の大切な役割です。

生成AIと医薬品情報認定薬剤師の協働による独自の価値


生成AIを「優秀なアシスタント」として活用し、「人間にしかできない特別なこと」を考えていく。

高度な情報の目利き

AIが集めてまとめた膨大な情報に対して、薬剤師として情報の信頼性、バイアスを厳しく評価。
取捨選択し、本当に価値ある情報を取り出し・整理する。

倫理的判断と意思決定支援

AIはデータに基づいた合理的な選択肢を示せますが、治療方針の決定には倫理的な難しさが伴うことも少なくありません。
患者さんの価値観や人生観を尊重し、最善の意思決定を支える過程では、人間としての倫理観と共感力が欠かせません。

薬剤師としての専門知識、批判的思考、臨床経験、コミュニケーション能力、倫理観を組み合わせることで、AI単独では決して達成できない、高度で人間らしい薬学的ケアを提供できると考えています。

さいごに

病院薬剤師21年目になり、経験、年齢やAIなどのテクノロジーを考え、これからの薬剤師として行動するか。

  • 薬学に軸足をおき、医薬品情報の評価できるようにする。
  • 医師と会話が成り立つレベルの医学知識を勉強する。
  • 自分が関わるに分野の深い知識を併せ持つ。
  • AIを効果的に活用し、人間にしかできない判断をする。

具体的には、このような考えで努力を続けていきたいです。

医療を取り巻く環境は、技術の進化、社会構造の変化により、これからもめまぐるしく変わっていくでしょう。
特にAIの進化は、薬剤師の役割を大きく変える可能性があります。
でも、変化を恐れるのではなく、むしろチャンスととらえ、薬剤師としての専門性を深め、AIなどのツールを賢く活用する。
それが今後の薬剤師として今後も活躍する方法の1つと考えています。

40代に入り、体力の変化や記憶力の低下を感じることもあります。
これまでの経験とテクノロジーを活用してこれからの医療に貢献できればとこの記事を書きました。

これからも変化に対応できる薬剤師でありたいです。

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