medinina 2019年6月号を読んで抗菌薬のアプデートする内容を備忘録をかねて書きます。
抗菌薬の知識のアップデートにご確認ください。
ペニシリン系抗菌薬
ペニシリン系はβラクタム系に分類されます。
ペニシリンは”弱い”抗菌薬
カルバペネムは”強い”抗菌薬
という話を聞きますが違います。
抗菌スペクトルが広いか狭いかで考えましょう。
強さの比較は、起因菌、感染臓器で考えます。
たとえば、肺炎の起因菌が肺炎球菌の場合、カルバペネム系よりもペニシリン系の方が強いです。
ペニシリン系抗菌薬は感受性があれば安くて良い抗菌薬ですよ!
作用機序
細胞の細胞壁合成阻害が作用機序です。
細胞壁にある細胞壁合成酵素のひとつであるPBP(penicillin binding protein)に結合します。
分類
天然ペニシリン
- ペニシリンG
アミノペニシリン
- アンピシリン
- アモキシシリン
緑膿菌に感受性があるペニシリン
- ピペラシリン
※ 次のTAZ/PIPCも緑膿菌に感受性あります。
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン
- アモキシシリン / クラブラン酸(AMPC/CVA)
- アンピシリン / スルバクタム(ABPC/SBT)
- タゾバクタム / ピペラシリン(TAZ/PIPC)
PK/PD
T>MIC(Time above MIC)
MICとは最小発育阻止濃度のことです。
起因菌のMICを超えている時間が長いほど効果が良いということです。
“時間依存性”の抗菌薬と考えてください。
ペニシリン系抗菌薬のアップデート
2019年6月時点でのアップデート事項です。
ペニシリンアレルギー
IgEを介したアナフィラキシーまれ
- 非経口では0.001%
- 経口では0.005%
(Lancet 393:183-198,2019 PMID: 30558872)
JAMAでも5%未満とされ、以下の記載もあります。
- ペニシリンとセファロスポリンの交差反応は2%で、以前報告された8%よりも少ない
- IgEを介したペニシリンアレルギーは時間とともに減少し、80%が10年後に寛容になる
(JAMA 321:188-199,2019 PMID: 30644987 )
ただし、アミノペニシリンとセファロスポリンの交差反応は40%なので注意が必要です。
TAZ/PIPCとVCMの併用はAKIが増える
VCM単独と比較してTAZ/PIPCを併用した群は急性腎機能障害(AKI)が増えました。
(Crit Care Med 46:12-20,2018 PMID: 29088001)
TAZ/PIPCとVCMを併用するとAKIがふえる。
これだけが強調されてますが、CFPMまたはMEPMとVCMの併用と比較してもAKIは増えます。
AKIを発症するまでの時間は、TAZ/PIPC併用群の方が早い傾向があるものの、CFPMまたはMEPM併用群と比較して有意ではありませんでした。
大腸菌または肺炎桿菌の菌血症に対する効果
セフトリアキソン耐性の大腸菌または肺炎桿菌の菌血症に対して30日内死亡率を調べた報告でTAZ/PIPCはMEPMに非劣勢を示すことができませんでした。
(JAMA 320:984-994,2018 PMID: 30208454)
この論文では検出菌のESBL産生菌が85.2%、AmpC産生菌が10.2%であり、ESBLを産生する大腸菌または肺炎桿菌の菌血症に対してTAZ/PIPCを使用するのはよく考えた方がよいですね。
セフェム系抗菌薬
ペニシリン系、カルバペネム系と同様にβラクタム系に分類されます。
セフェム系は細かく分類すると、セファロスポリン系、オキサセフェム系、セファマイシン系に分類されます。
第1世代から第4世代まであり、世代が進むにつれて抗菌スペクトルがグラム陰性桿菌に広がっていきます。
作用機序
ペニシリン系と同様に細胞の細胞壁合成阻害が作用機序です。
細胞壁にある細胞壁合成酵素のひとつであるPBP(penicillin binding protein)に結合します。
分類
主要な注射の抗菌薬を記載します。
第1世代セファロスポリン
- セファゾリン(CEZ)
第2世代セファロスポリン
- セフォチアム(CTM)
第3世代セファロスポリン
- セフトリアキソン(CTRX)
- セフォタキシム(CTX)
- セフタジジム(CAZ)
- スルバクタム/セフォペラゾン(SBT/CPZ)
第4世代セファロスポリン
- セフェピム(CFPM)
- セフォゾプラン(CZOP)
セファマイシン系
- セフメタゾール(CMZ)
オキサセフェム系
- フロモキセフ(FMOX)
CMZ、FMOXはESBL産生菌に条件付きで使用できるかもしれない。
PK/PD
T>MIC(Time above MIC)
MICとは最小発育阻止濃度のことです。
起因菌のMICを超えている時間が長いほど効果が良いということです。
“時間依存性”の抗菌薬と考えてください。
セフェム系抗菌薬のアップデート
2019年のブログ執筆時点で新しい話題はないですね。
あえて上げるとすれば、第3世代経口セファロスポリンとESBL産生グラム陰性桿菌に対するセフメタゾールですね。
第3世代経口セファロスポリンは推奨しない
第3世代経口セファロスポリン
- セフジニル(セフゾン)
- セフカペンピボキシル(フロモックス)
- セフジトレンピボキシル(メイアクト)
- セフポドキスムプロキセチル(バナン)
ぼくは、基本的に処方提案することはない抗菌薬です。
理由は3つ。
- バイオアベイラビリティが低い
- 菌が耐性化するリスクをかかえるだけ
- 偽膜性腸炎のリスクをかかえるだけ
バイオアベイラビリティが低い
- セフジニル 25%
- セフカペンピボキシル 不明(30%?)
- セフジトレンピボキシル 16%
- セフポドキスムプロキセチル 46%
サンフォードにバイオアベイラビリティが記載されています。
セフカペンピボキシルも詳細は不明ですが、高くないことははっきりしています。
経口セフェムは第1世代のみ覚えておけばOK
第1世代経口セフェムはバイオアベイラビリティが90%以上あり臨床で有用です。
セファクロル、セファレキシンがありますが、セファクロルは皮疹がセファレキシンよりも多いという話を聞いたことがあるのですが…論文を忘れました。
ESBL産生グラム陰性桿菌にセフメタゾール有効なケースがある
軽症の尿路感染症にセフメタゾールを使用する症例報告がでてきてます。
ぼくもバイタルが安定しており、ドレナージ困難な症例ではない場合に提案することがあります。
重症でない腎盂腎炎にはMIC≦1であれば菌血症でも有効かもしれないとのこと。
(Antimicrob Agents Chemother 59:5107-5113,2015 PMID: 26100708 )
カルバペネム系抗菌薬
ペニシリン系、セフェム系と同じくβラクタム系に分類されます。
作用機序
細胞の細胞壁合成阻害が作用機序です。
細胞壁にある細胞壁合成酵素のひとつである
PBP(penicillin binding protein)に結合します。
種類
- イミペネム/シラスタチン(IPM / CS)
- パニペネム/ベタミプロン(PAPM / BP)
- メロペネム(MEPM)
- ドリペネム(DRPM)
- ビアペネム(BIPM)
- テビペネムピボキシル(TBPM-PI)
PK/PD
T>MIC(Time above MIC)
MICとは最小発育阻止濃度のことです。
起因菌のMICを超えている時間が
長いほど効果が良いということです。
“時間依存性”の抗菌薬と考えてください。
カルバペネム系抗菌薬のアップデート
2019年のブログ執筆時点でのアップデートは、人工呼吸器関連肺炎(VAP)にDRPMを使用する際の注意事項です。
DRPMはVAPに使用しないほうがよい
2014年3月6日に米国食品医薬品局(FDA)が
VAPにDRPMを使用すると死亡リスクの増加と臨床的治癒率が低下すると発表しました。
概要を簡単に説明すると、
アメリカでDRPMとIPM/CSのVAPに対する治療効果を比較しました。
(Crit Care. 2012 Nov 13;16(6) PMID:23148736)
- DRPM 1回 1g 8時間毎 4時間かけて投与 7日間
- IPM/CS 1回 1g 8時間毎 1時間かけて投与 10日間
28日間の死亡率は、DRPM群(23.0%; n = 31/135)、IPM / CS群(16.7%; n = 22/132)とDRPM群が高かく、臨床的治癒率もDoribax群が低い結果になりました。
DRPMの方が投与日数が短いことが影響しているのではないか?とも思えますが、7日目の時点でも有意差がありそうな経過のようです。
FDAは、この試験結果をうけてDRPMをどの種類の肺炎にも承認していおらず、腎盂腎炎を含む複雑性腹腔内感染症と複雑性尿路感染症に対して承認しています。
キノロン系抗菌薬
キノロン系抗菌薬は良くも悪くも使いやすさのためか乱用されやすい抗菌薬です。
使い所をおさえて処方支援しましょう。
キノロン系抗菌薬の基本
2019年のブログ執筆時点で頻用されるキノロン系抗菌薬は以下になります。
- シプロフロキサシン(CPFX)
- レボフロキサシン(LVFX)
- モキシフロキサシン(MOFX)
- ガレノキサシン(GRNX)
- シタフロキサシン(STFX)
抗菌スペクトル
緑膿菌を含むグラム陰性桿菌を広くカバーする抗菌薬です。
CPFX以外はグラム陽性球菌の肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、溶連菌もカバーする“レスピラトリーキノロン”と呼ばれます。
ただ、黄色ブドウ球菌の耐性化が進んでいるとの話もあります。
自施設のアンチバイオグラムを確認しましょう。
市中獲得型のMRSA(CA-MRSA)に対しても感受性があることがあります。
さらに非定型肺炎の起因菌であるマイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどをカバーします。
結核菌などの抗酸菌や非結核性抗酸菌にも効くので、呼吸器感染症で結核の可能性があれば除外をしておかないと、あとから大変なことになります。
キノロン系抗菌薬は耐性化が進んでいる
キノロン系抗菌薬は尿路感染症に安易に使用されてきたため、大腸菌の耐性化が進んでいます。
緑膿菌に感受性がある内服抗菌薬はキノロン系になるので、第一選択ではないケースで使用しない努力が必要です。
厚生労働省の薬剤耐性(antimicrobal resistance:AMR)対策で、“2020年までに大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる”、“経口セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬の人工1,000人あたりの1日使用量を2013年の水準から50%削減する”という目標を掲げています。
海外でも安易な処方をしないよう提言している状況です。
作用機序
細菌のDNAの複製に必要なトポイソメラーゼに作用して殺菌的に効果を発揮します。
トポイソメラーゼはⅡとⅣがあり、キノロンの種類でどちらに作用するか割合が異なります。
キノロン系抗菌薬の耐性機序はこのトポイソメラーゼの遺伝子変異で起こると言われており、
シプロフロキサシンは1回の変異で耐性を獲得することがありますが、その他のフルオロキノロンのキノロン系は2、3回と数を重ねることで耐性を獲得します。
PK/PD
濃度依存性の抗菌薬です。
半減期が長いため
CPFXは1日2回ですが、その他は1日1回投与になります。
代謝はCPFXは肝臓と腎臓の両方から排泄されてますが、その他は腎排泄がほとんどです。
バイオアベイラビリティも高く移行性も良好です。
ただし、中枢神経への移行性は悪いため基本的には使用しません。
CPFXとMOFXは比較的移行性がよいため使用することがあります。
ちなみにMOFXは尿路への移行性が悪いため尿路感染症には使用できません。
薬物相互作用は、2価、3価の金属イオンとはキレートを形成し吸収が低下するため服用タイミングをあけなくてはいけません。
キノロン系抗菌薬のアップデート
2019年ブログ執筆時点でのアップデートは添付文書の改定について記載します。
2019年1月10日に添付文書の改定
キノロン系抗菌薬にPMDAから添付文書改訂に関する文書がでました。
主に以下の項目が追加されてます。
- 「慎重投与」の項に、「大動脈瘤又は大動脈解離を合併している患者、大動脈瘤又は大動脈解離の既往、家族歴若しくはリスク因子(マルファン症候群等)を有する患者」を追記する。
- 「重要な基本的注意」の項を新設し、観察を十分に行うとともに、腹部、胸部又は背部に痛み等の症状があらわれた場合には直ちに医師の診察を受けるよう患者に指導する旨、上記 1.にて追記する患者では、必要に応じて画像検査の実施も考慮する
旨を追記する。 - 「重大な副作用」の項に「大動脈瘤、大動脈解離」を追記する。
これは米国食品医薬品局(FDA)が2016年5月12日にだしたDrug Safety Communicationが関係しています。
参考図書
最新の情報にアップデートするには月刊誌が効率がいいです。
「medinina 2019年6月号 抗菌薬をアップデートせよ!」がおすすめです。
岸田直樹 先生が企画されておりブログ記事執筆時点での新しい情報で記載されています。
薬剤師は「medicina 2019年6月 抗菌薬をアップデートせよ!」を読もう
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