免疫不全患者の感染症で勉強したこと【医師・薬剤師】

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免疫不全患者の抗菌薬選択は命に関わるため重要です。
とりあえず、カルバペネム+バンコマイシンがルーチンでよいですか?
抗菌薬を根拠をもって選択できる薬剤師としてになりたいですよね。

免疫不全患者、発熱性好中球減少症(FN)、ステロイド・生物学的製剤使用中の患者の感染症について勉強したことをまとめました。

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目次

免疫不全患者の感染症で勉強したこと

感染症リスクが高くなる原因は、いくつかあります。

「細胞性免疫」と「液性免疫」について説明します。

・細胞性免疫

「細胞性免疫」は主にT細胞が関与します。

  • CD4陽性のヘルパーT細胞(Th)が以下の免疫を担当
    • Th1:細胞内寄生する一般細菌、原虫、ウイルス
    • Th2:寄生虫
    • Th17:細胞外細菌(特に黄色ブドウ球菌)、真菌
  • CD8陽性の細胞傷害性T細胞(CTLs)はウイルスに対する免疫を担当

詳細は、こちらを参考にするとわかりやすいですよ。

・液性免疫

「液性免疫」は血漿やリンパ液中に存在する抗体、補体が主な役割を担います。

液性免疫不全では、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌の感染症リスクが増えます。

特に脾臓摘出後の患者は注意が必要で、

脾臓摘出後重症感染症(overwhelming post-splenectomy infection:OPSI)をきたすことがあるので注意が必要です。

脾臓摘出後は肺炎球菌ワクチンを接種しましょう。

液性免疫は、こちらを参考にするとわかりやすいですよ。

次に疾患ごとの感染症リスクを書いていきます。

よく糖尿病、腎不全の患者は感染症リスクが高いと言われますよね。

糖尿病、腎不全、肝硬変患者の感染症リスクについて勉強したので書きます。

糖尿病患者の感染症リスク

糖尿病患者は感染症リスクが高いとよく言いますが、論文化されてるんですね。

糖尿病患者は、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症のリスクが高く、上気道感染症のリスクは変わらない(PMID: 16007521 )

腎不全患者の感染症リスク

腎不全、透析患者の感染症リスクは高くなるといわれていますが、こちらも論文化されてます。

腎機能低下を伴う感染症関連入院のリスク(PMID: 21906862)

透析患者は細胞性免疫が障害され、その結果、液性免疫も低下します。

さらに透析時の血管穿刺で皮膚バリアの損傷もおきるためリスクが高くなります。

肝硬変患者の感染症リスク

肝硬変患者は液性免疫不全がでてきます。

肝硬変患者の突発性細菌性腹膜炎(SBP)

  • 入院した肝硬変患者の12%はSBPを合併していた(PMID:11303974)
  • SBPの原因微生物はEscherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Streptococcus pneumonia (PMID:6500513 → abstractのみ)

Streptococcus pneumoniaが原因微生物となるのは液性免疫不全のためです。

慢性肝疾患における突発性細菌性腹膜炎(SBP)の予防

静脈出血、腹水中タンパク濃度<1.0g/dL、SBP既往などのハイリスク患者はフルオロキノロンの予防投与によってSBPが予防できるます。

PMID: 1985045

PMID: 2210673

PMID: 1397884

PMID: 10347104

PMID: 17854593

ただし、キノロン耐性化のデメリットがあるので注意が必要です。

キノロン耐性化のためNFLXとCTRXを比較した試験では、CTRXの方が予防効果が高かった例もあります(PMID: 17030175)

また、肝硬変のSBP予防にST合剤が有効だった報告はこちら(PMID: 7887554
PMID: 19475696)

肝硬変患者のSBP予防に抗菌薬を使用するメリットとデメリットについては、2016年の論文があります(PMID: 26528864)

発熱性好中球減少症(FN)の勉強したこと

発熱性好中球減少症(FN)とは

好中球数が500/μL未満、または、1000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予想される状態で、かつ、腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合を、発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)と定義する。

引用:日本臨床腫瘍学会の発熱性好中球減少症診療ガイドラインより

発熱性好中球減少症のポイント

FNは重症で進行が早い感染症を起こすリスクが高いので、早めの対応が大事です。

好中球が減少している状態は、通常、炎症部位に浸潤する好中球が少ないため、貪食能が低下します。そのため症状が出づらい状態であると認識しましょう。(PMID: 1052668)

化学療法中の患者がFNになった場合は、皮膚・粘膜のバリアが破綻していることが多いため、常在菌が起因菌になることがあります。

重症度

FNの重症度はMASCCスコア(PMID: 10944139)で評価します。

特徴スコア
FNの症状:症状なし または 軽度5
FNの症状:中等度3
血圧低下なし(収縮期血圧>90mmHg)5
慢性閉塞性肺疾患なし4
固形腫瘍または真菌感染症の既往がない血液悪性腫瘍患者4
脱水症状なし3
外来患者3
60歳未満2
※ MASCCスコア:満点26点
  • 高リスク群:20点以下
  • 低リスク群:21点以上

低リスク群はCVA/AMPC+CPFXの内服治療でも可能と考えられてます。

ペニシリンアレルギーがある場合は、CVA/AMPCをCLDMに変更します。

原因微生物

血流感染症はグラム陽性球菌が多いですが、緑膿菌を含めたグラム陰性桿菌のカバーが重要です。

好中球減少症が7〜10日以上続くと真菌感染症を起こしやすいの注意が必要です。

真菌はカンジダが血流感染症、アスペルギルスが肺炎の起因菌になるので頭に入れておきましょう。

(PMID: 23975584 )

治療

入院で治療する場合、基本的には以下の抗菌薬からempiric therapyを開始します。

  • セフェピム(CFPM)
  • タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)
  • メロペネム(MEPM)

必要に応じてその他の微生物をカバーします。

ESBLなどのカバーを考慮すべき状況

FNでESBLなど耐性グラム陰性桿菌のカバーを考慮する状況は下記です。

  • 敗血症性ショックなどの重症例
  • ESBLな耐性グラム陰性桿菌の定着、感染既往がある
  • FNの原因としてESBLによる感染症の頻度が高い

(欧州のFNガイドライン2013年 PMID: 24323983)

グラム陽性球菌(MRSA)のカバーを考慮する状況

FNのempiric therapyとしてグラム陽性球菌(MRSA)のカバーを考慮する状況は下記です。

  • 重症敗血症で血行動態が不安定
  • 肺炎
  • 血液培養でグラム陽性球菌陽性
  • カテーテル関連感染症が疑われる
  • 皮膚軟部組織感染症
  • MRSA、VRE、PRSPを保菌
  • キノロン予防内服中のFN
  • 重度の粘膜障害

(米国感染症学会のガイドライン2011年 PMID: 21205990)

個人的には2つ気になる点があります。

1.肺炎

ここで言う“肺炎”はMRSA肺炎でしょうが、MRSA肺炎の頻度を考えるとルーチンでカバーするか意見がわかれるところです。

2.キノロン予防内服中のFN

“キノロン予防内服中のFN”もカバーしていない微生物を考えるとMRSAが起因菌として考慮すべき状況になるからでしょうね。

ただし、これも意見がわかれるところで、

キノロン内服中のFN → バンコマイシン追加!を安易にするのは、何かを見落とす気がします。

そうは言っても、FNは症状の進行が早い緊急事態なのでカバーしていない微生物をカバーすることを否定しているわけではありません。

感染症診療の原則を忘れず、に抗菌薬を選択の根拠が説明できることが重要です。

1、2ともに治らない原因を考えて、ロジックに対応できるよう、ぼくも精進します。

嫌気性菌のカバーを考慮する状況

FNのempiric therapyで嫌気性菌をカバーする必要はありません。(PMID: 15937905)

ただし、感染臓器によっては起因菌になるので注意が必要です。

腹腔内感染症、膿瘍形成、歯周炎などは考慮した方がよいでしょうね。

抗菌薬をやめるタイミング

米国感染症学会のガイドライン(PMID: 21205990)では、

発熱の原因が不明の場合は、以下の2つを満たせば抗菌薬終了を考慮できます。

  • 2日以上解熱している
  • 好中球が500/μL以上

感染臓器がわかっている場合は、その感染症の標準治療に準じます。

ステロイドを使用している患者の感染症リスク

高用量のステロイドを使用している患者は

ニューモシスチス肺炎(PCP)の予防を考慮します。

  • プレドニゾロン20mgを2〜3週間以上使用する場合はPCP予防するべき(PMID: 11565082)
  • プレドニゾロン5mgを数ヶ月、数年単位で使用している場合にPCP予防をするかはコンセンサスがない

現在の使用mgだけでなく蓄積mgも影響します。(PMID: 22241902)

PCPではありませんが、

以前、長期間使用したプレドニゾロン5mgを2ヶ月くらい前に中止した方が、真菌を起因菌として想起していなかったため真菌感染症の対応が後手になったことを反省しました。

これが忘れちゃいけない臨床経験ってことでしょうね。

同じことをしないよう心にメモしてます。

“プレドニゾロン5mgを数ヶ月、数年単位で使用している場合にPCP予防をするかはコンセンサスがない”

これ、他の感染症でも悩みますよね。

低用量のプレドニゾロンは、ピンポイントに用量だけみると感染症リスクが高くないと考えがちです。

しかし、長期の使用例は感染臓器によって想起する起因菌に注意が必要ということでしょうね。

生物学的製剤を使用している患者の感染症リスク

結核、HBVのスクリーニングは必須です。

活動性感染症(抗菌薬が必要な感染症、活動性結核、帯状疱疹、急性BおよびC型肝炎、致死的真菌感染症)や未治療の潜在性結核を合併している患者には禁忌です。

生物学的製剤の使用中に生ワクチンを接種するのは禁忌です。

TNF阻害剤を使用している患者のPCP予防

TNF阻害剤使用中に一律のPCP予防は推奨されていません。

TNF阻害剤使用中のRA患者におけるPCPリスク因子は、

  • 年齢65歳以上
  • プレドニゾロン6mg/日以上
  • 既存の肺病変

(PMID: 17978303)

抗IL-6受容体抗体を使用している患者の注意点

抗IL-6受容体抗体(サリルマブ、トシリズマブ)は,

発熱や倦怠感のような全身症状とCRPの上昇を抑制するため、

体温やCRPの少しの上昇を過小評価してしまうことがあるので注意が必要です。

※ IL-6は免疫応答系に関与するサイトカイン。

そんなネガティブな一面をもつ抗IL-6受容体抗体の覚え方。

サリルマブは “ケブザラ”

トシリズマブは “アクテムラ”

「毛深い悪魔(ケブかいアクま)」

悪魔って悪いことをするので

“発熱やCRPをマスクする” イメージをもつかなあって(汗)

後輩に言ったら苦笑いされた。

どうでもいいですね…

ニューモシスチス肺炎(PCP)予防

PCP予防は、

  • HIV/AIDS患者はCD4<200/μLで適応
  • non-HIVは明確な指標がない

non-HIVは個々にリスクを判断します。

  1. 基礎疾患が何か?
  2. 使用中の治療薬

血液悪性腫瘍、造血幹細胞移植、固形臓器移植、固形腫瘍は国際ガイドラインがあります。

リウマチ・膠原病、炎症性腸疾患などのPCP予防をどうするかが問題になります。

血液悪性腫瘍および固形悪性腫瘍の患者におけるPCPの診断、予防および管理に関するガイドライン2014(PMID: 25482745 )

造血細胞移植レシピエントの感染性合併症予防ガイドライン(PMID: 19747629)

固形臓器移植におけるニューモシスチス肺炎(PMID: 23465020)

自己免疫疾患は、

すでに高用量のプレドニゾロンを使用しているため

PCP予防を開始しているケースが多いですが、

RAの場合はステロイドが低用量がゆえに

PCP予防がされずPCPを発症することがあるため注意が必要です。

先に述べたように、

RAでTNF阻害剤使用中の場合、

PCPリスク因子として下記を考慮してPCP予防します。

  • 年齢65歳以上
  • プレドニゾロン6mg/日以上
  • 既存の肺病変

(PMID: 17978303)

参考図書

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2019年1月に発刊された「レジデントノート増刊号 免疫不全患者の発熱と感染症をマスターせよ!」は、知識の整理、アップデートができておすすめです。
各項目の引用文献も充実しています。

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